「僕ね、一回でいいから、綺麗な海が見てみたいんだ」
2023年から数百年__緑豊かでジャングルのようだったこの島は、木の葉ひとつも貴重なほどの、自然なんて見る影もないビル街になった。
空き缶の漂う海を見ながら、千濱しおりはつぶやいた。
静寂高校特別学級。
素行に問題があるわけでもなく、成績が悪すぎるわけでもない生徒10人が集められている謎の教室。
彼ら彼女らにはひとつの共通点があった。
それは、"この国の方針に明確に反対している"こと。
国は進化した技術で巨大な高機能空気清浄機を作った。これさえあれば、草木に酸素を出してもらう必要がなくなる。
だから、国の発展のために森林伐採を加速化しようという方針。
このクラスにいる10人はそれに反抗していたが、周りからは白い目で見られていた。
このままでは、世の中が100%機械になってしまう。そんなのはつまらない。
だが、たかが10人ぽっちが反対したところで何も変わらないのも事実だった。
「本当にそうかな?」
しおりがまた話し始める。
「行動すれば、意見を交換しあえば、大人だって考えが変わるかもしれないよ」
「どんなに合理的になっても、冷酷になっても…みんな人間だからね」
10人は、10人という少人数ゆえに、団結力が強かった。
何度も繰り返し作戦会議をして、政府の高い高いビルに乗り込む。
挨拶をして、説得を繰り返し、時には殴って蹴って、上層階に向かってゆく。
未来を動かして伝統を守る、そのために尽力して戦う高校生たちの、灰色の青春とコミュニケーション。